ヌン族の「森林をまつる祭り」 |
シンマン県シンマン村を訪れると、地平線まで続く緑豊かな森林が広がっています。この地域には、植林された森や保護再生林だけでなく、樹齢数百年の巨木が立ち並ぶ原生林も残されています。これらの森林は、天然資源保護の意識と共に、各森に守護神が宿るという信仰に基づいて、地域住民によって大切に守られてきました。シンマン村の住民ジ・サオ・ガンさんの話です。
(テープ)
「私たちヌン族は、毎年森林をまつる祭りを行っています。村人たちが協力して寄付を集め、祭りの場所に集まって共に食事をするのが恒例になっています。家族連れの方々は、自宅で作った料理や米を持ち寄り、皆で分け合って楽しむのですよ。」
この祭りの準備は、村人たちの話し合いから始まります。儀式の方法や場所、祈祷師の選出、供物の準備など、細部にわたって丁寧に決められていきます。祈祷師には、民族の伝統をよく理解し、先代から祈祷の方法を受け継いだ信頼できる人物が選ばれます。
供物は「森の神」「土地神」「天候の神」への3種類が用意され、それぞれ決まりに従って盆に配置されます。豚、鶏、酒、赤いおこわ、線香などが供えられ、中でも「森の神」への供物が最も重要視されます。
「森林をまつる祭り」の準備
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興味深いのは、村人たちが持ち寄った紙幣を12束に分けて1年の12ヶ月を表現し、それらを船の形に折って昔の貨幣の代わりとする習慣です。これらの準備が整うと、祈祷師はヌン語で森の神に祈りを捧げ、村人たちの健康と繁栄を願います。
(テープ)
「村人たちは感謝の気持ちを込めて、鶏やアヒル、豚を供物として持ってまいりました。どうか私たちを見守り、子供たちの健やかな成長をお護りください。そして、村人たちの仕事が実り多きものとなり、暮らしが豊かになりますようにと」
祭りは輪番制で行われ、各家庭は毎年、生きた鶏と重さ約50kgの黒豚1頭を購入するための寄付をします。祭りの日には各家族から1、2人が参加し、共に食事をします。祭りの後3日間は森に立ち入ることが禁じられ、新しい農作業の季節に向けて休養を取ります。
この「森林をまつる祭り」は、環境保護の意識を高めると同時に、人々の生活の安寧と豊かな実りを祈る場でもあります。また、コミュニティの絆を深める貴重な機会にもなっています。シンマン村のルー・ヴァン・ドゥックさんは次のように語りました。
(テープ)
「森林をまつる祭りは、単なる儀式ではありません。私たちヌン族の伝統と村の決まりに基づいて、全村民が一堂に会する大切な場なんです。ここでは、村の規則を再確認し、お互いに協力を呼びかけます。また、農作業の計画や新しい耕作方法、家畜の飼い方、作物の育て方など、村の生活に関わる様々な情報を共有する機会にもなっています。祭りを通じて、私たちの暮らしがより良いものになるよう、皆で知恵を出し合うんですよ」
このように、ヌン族の森林をまつる祭りは単なる儀式ではなく、森林保護や生態系維持、そして地域社会の結束を強める重要な文化的行事として機能しているのです。古くから受け継がれてきたこの伝統が、現代の環境保護や地域振興にも大きな役割を果たしていることは、非常に興味深い事例と言えるでしょう。