ムオン族の儀式 |
(モー・ムオン披露会の音)
ダクラク省には約1万6千人のムオン族が暮らしています。モー・ムオンは、葬儀、安泰祈願、豊作祈願など、人生の重要な場面で執り行われます。「モー」は、人と霊的世界、神々、そして祖先を結ぶ神聖な架け橋としての役割を担っています。
その内容は実に豊かで、ムオン族の歴史、文化、生活の知恵が込められた歌、韻文、物語から構成されています。まさに「生きた文化の教科書」と言えるでしょう。
ダクラク省のタンラップ地区に住むクアック・ティ・ホア・フオンさんは、祖先の命日に特別な法要を営みます。伝統に従って丁寧に供物を準備し、「モー師」と呼ばれる祈祷師を招くのです。フオンさんによりますと、ムオン族は半世紀以上前に、遠く離れた北部ホアビン省から移住してきました。それでも新しい土地で、故郷の美しい伝統文化を大切に守り続けています。
(テープ)
「祝祭日や祖先の命日には、必ずモー師さんに正式な祭祀をしてもらいます。特に毎年の祖先の命日は欠かせません。モー師さんが祭祀を行い、祖先の霊を呼び、共に食事をし、最後に丁重にお見送りするのです」
(モー・ムオン披露会の音)
ムオン族の人々にとって、モー師は特別な存在です。数万ものモーの句を暗記し、様々な儀式や習慣、風習に精通している、まさに「生きた図書館」のような人です。
モー師 |
モー師のブイ・ヴァン・ミンさんは、モーが各家庭で朗誦され、葬儀、出産祝い、厄除け、結婚、新築など、人生の節目となる様々な儀式で披露されることを教えてくれました。
(テープ)
「どの地域にもモー師がいますが、地域によってモーの言葉や祭祀の言葉は異なります。正月の祝い方、結婚式での花嫁花婿の迎え方、各種祭りの進め方も、地域ごとに特徴があります」
しかし、この貴重な文化遺産は今、大きな危機に直面しています。1万6千人ものムオン族が暮らしているにも関わらず、モー・ムオンを完全に披露できる芸人は、わずか6人しか残っていません。
そのような中、昨年2月に嬉しいニュースが届きました。ダクラク省のモー・ムオンが、ベトナム政府によって国家無形文化遺産に登録されたのです。
現在、ダクラク省では更なる取り組みが進められています。国立音楽院や他の関連省庁と協力して、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の無形文化遺産リストへの登録を目指しているのです。
ベトナム国立音楽学院のファム・ミン・フオン所長は、今後の計画について次のように話しています。
(テープ)
「最も重要な作業は、代表的で完全なモー儀式の映像と音声を記録することです。この貴重な文化を確実に後世に伝えるための取り組みを進めています」
消失の危機に瀕しながらも、モー・ムオンの国家遺産登録は、ムオン族の人々にとって大きな誇りとなっています。同時に、この特色ある文化遺産を保護し、ベトナム中部高原地帯テイグエン地方の豊かな文化の一部として、未来に向けて広く伝えていく重要な機会でもあります。
古代から続く神聖な儀式モー・ムオンは、私たちに文化の多様性と、それを守り続けることの大切さを教えてくれる、かけがえのない宝物なのです。