儀式には大勢の村人や親族が招かれた。 |
(ザオ族の音楽)
お聞きいただいているのは、カップ・サックの儀式で流れる音楽。どこか懐かしい、心に染み入るような音色ですよね。ザオ族の男性にとって、カップ・サックは人生最大のイベント。この儀式を経て初めて、一人前の大人として認められ、一家の主(あるじ)となり、村の宗教的な活動にも参加できるようになるんです。まさに、ザオ族のアイデンティティそのものを表す、生きた文化遺産と言えるでしょう。
儀式は、春や冬の農閑期、つまり田畑の仕事が一段落した頃に行われます。期間は3日から7日間。家庭の事情や氏族の規模によって決まるそうです。
(祭礼の音を背景に)
儀式の期間中、成人となる若者は、厳しい決まりに従って過ごします。祭礼を行い、村の長老から教えを学び、古くから伝わる経典を読み、提灯を持って村の中を練り歩くんです。そして最後に、祈祷師から「サック・フォン」という特別な護身符を受け取ります。これが、ザオ族社会で大人として認められる、大切な証となるんですね。
地元ナムダム村の村長、リー・ダイ・トンさんにお話を伺いました。
(テープ)
「10歳から16歳の若者が、この儀式を受けます。40歳になってもまだ受けていない男性は、まだ子供扱いされるんです。でも、その年齢を過ぎてしまうと、もう儀式は行えません。長老たちは、年を取りすぎると教えを授けられないと考えているからです。」
儀式は一晩中続き、祭司たちが交代しながら様々な儀式を執り行った |
カップ・サックは、神聖な儀式でありながら、同時に一族が集まる大切な場でもあります。華やかな民族衣装に身を包んだ人々、踊り、太鼓の力強い響き、横笛の美しい音色。厳粛な雰囲気の中にも、色とりどりの文化が花開く、まさに祭りの空間が生まれます。
これは単なる成人式ではありません。祖先や神々、そして民族の深い価値観と若者をつなぐ、神聖な旅路でもあるのです。グローバル化が進む現代、多くの伝統が失われがちですが、ザオ族のカップ・サックは違います。商業化されることなく、他の文化と混ざり合うこともなく、民族のアイデンティティの象徴として、今も力強く生き続けています。
今年、儀式を受ける予定のリー・タイン・フック青年に、話を聞いてみました。
(テープ)
「カップ・サックには、本当に大きな意味があります。娘は嫁いでいきますが、息子には血統を守る責任があります。この儀式を受けることで、すべてが良い方向に向かい、自分も成熟していくのを感じるんです。準備は大変ですが、今はとても緊張しています」
ハザン省では、この貴重な儀礼を観光資源としても活用しています。観光客は、儀式を見学するだけでなく、ザオ族の民族衣装を着たり、祈祷師から直接説明を聞いたり、伝統料理を味わったりする体験もできるんです。
地元の省観光促進担当者のダン・クオック・ス氏は、次のように語りました。
(テープ)
「私たちの方針は、文化的価値をしっかりと保全することです。観光は、文化と遺産を基盤として発展させています。ザオ族のカップ・サックは、本当に独特で特色ある文化の宝物の一つです。外国人観光客も、これが一人の人間の成人式だということに深く感動されています。」
もしベトナムの少数民族文化に興味をお持ちでしたら、ぜひハザン省を訪れて、ザオ族のカップ・サック儀礼に参加してみてください。それは、人々が大切に守り、受け継ぎ、そして世界に伝えている、ザオ族の貴重な文化遺産の一部を体験することになるでしょう。