ベトナム北部山岳地帯にあるハザン省で、険しい岩山が連なっています。ここには、時代を超えて静かに息づく伝統建築である土壁の家」があります。これは、モン族、ザオ族、テイ族など、この最北の地に暮らす各少数民族が受け継いできた、粘り強さと器用さ、そして自然への適応力を象徴する文化の一つです。
土壁の家(写真: Khánh Hoà/TTXVN) |
今、その伝統的な土壁の家が、新たな姿へと生まれ変わっています。地元に根ざした暮らしを体験できる「コミュニティ・ホームステイ」として、国内外の観光客を迎え入れています。
現場の音
鉄筋コンクリートでも高層ビルでもないこれらの土壁の家は、大地の恵みである土と、地元の人々の手によって築かれます。壁は何層もの粘土を何日もかけて叩き固めていくという伝統工法により作られ、完成までには、職人たちの根気と技術が不可欠です。
土壁の家の屋根(写真: Khánh Hoà/TTXVN) |
屋根が伝統的な陰陽瓦、または、茅(かや)などの草で葺かれ、山岳地帯の自然と調和した、どこかやわらかな佇まいを見せます。夏は涼しく、冬は暖かいといった過酷な自然の中で暮らす知恵が詰まった、持続可能な建築様式です。ハザン省クアンバ県で「QuanBa Taigoo ホームステイ」を営むリー・ター・ムオイさんは次のように述べました。
(テープ)
「この土壁の家は、山岳地帯にあるハザン省の文化そのものです。ここに住む少数民族ザオ族のほとんどの家族が、この工法で家を建てています」
現在、ハザン省の土壁の家は住まいであるだけでなく、コミュニティツーリズムの新たな目玉となりつつあります。ハザン省にある多くの家庭が伝統的な家屋を修復・保存しながら、近代的な設備を巧みに取り入れ、観光客を魅力しています。旅行会社「ファイブスターズ」のルオン・ズイ・ズアイン社長は次のように語りました。
(テープ)
「宿泊サービスを運営する各世帯は、伝統的な家の構造を守りながらも、観光客のニーズに応えられるよう十分な設備を整えています。たとえば、土壁の家には共用スペースと個室の両方が用意されていて、外国人観光客にとって、土壁の家そのものが大きな魅力があります」
土壁の家にある日常生活(写真: Khánh Hoà/TTXVN) |
ハザン省ドンバン県、ロロチャイ村にあるコミュニティ・ホームステイに足を運ぶと、観光客はロロ族による歌や踊りのパフォーマンスで迎えられます。そして、目の前に広がるのは、素朴ながらも美しい土壁の家の佇まいです。
現場の音
この伝統的な家に泊まることは、多くの観光客にとって特別な体験です。ハザン省を初めて訪れた中部沿岸地方にあるダナン市出身の観光客、ボー・ティ・タイン・チュックさんは次のように語りました。
(テープ)
「どの村でも、風景を写真に収めました。本当にユニークで魅力的です。私はこうした素朴で飾らない雰囲気が大好きなんです。今朝、村を一周してみましたが、どの家にも感動させられました」
現場の音
ハザン省のコミュニティーツーリズムを運営する村々を訪れると観光客はモン族、ザオ族、ロロ族にかかわる物語を聞くことができるだけでなく、餅づくりやトウモロコシのお酒を醸成する方法を体験したり、夜は暖炉を囲んで、山の静けさに響く横笛の音に耳を傾けたり、民族の人々と一緒に竹のダンスで盛り上がったりと、多彩な文化体験ができるようになります。先ほどのリー・ター・ムオイさんはさらに次のように語りました。
(テープ)
「ここでは、他では体験できない特別な空間があります。このユニークさが旅行者を惹きつけています。最近、こうした土壁の家に泊まりたいというお客様が本当に増えています。」
世界中がコンクリートに覆われていく中で、ハザン省は今もなお「土壁の家」を守り続けています。それは、失われゆく民族の伝統のアイデンティティに対する静かなメッセージと言えます。文化とは、正しく受け継がれさえすれば、決して時代遅れではなく、人々を惹きつける「目的地」になり得ることでしょう。